書評

村上世彰、高校生に投資を教える(村上世彰著/角川書店)を読む

この本は、村上氏がN高で1年間にわたって、株式投資の講師を務めた内容をまとめたものです。高校生向けの書籍ということで、「いま君に伝えたいお金の話」よりも一歩踏み込んで株式投資についての解説をしています。

彼の投資哲学を平易な表現であらわしつつ、実践的な内容も含まれています。本書を読む前に、授業を受ける高校生にあらかじめ「いま君に伝えたいお金の話」を読んでもらったということなので、私も読了してから、本書を読みました。以下、本書を読んで感じたことを記しておきます。

村上氏のコーポレート・ガバナンス論

村上氏は若いころから一貫して、会社はお金を投資に回すべきであり、余剰資金は株主者であるから、何年も現金として保有しているのであればそれは株主に配当金、または自社株買いという形で還元すべきだという主張を繰り返しています。

村上ファンドが大々的に取り上げられていた2000年代後半には、なぜ株主を重視すべきという理論が伝わらないのかといういらだちもあり、攻撃的な印象をマスコミにあたえていましたし、カネの亡者的な取り扱いをされていました。

その後次第に日本でもコーポレートガバナンスの議論がすすみ、企業は自発的にコーポレートガバナンス、株主を意識したメッセージを配信するようになりました。

株式投資は世の中に役立つ行為

若い人の中にはゲームが得意な人もいます。若い人しか気づくことができない分野で勝負ができるというのが株式投資のいいところです。

もちろん、財務諸表の読み方、その会社の強みはなにかといった話は社会人経験があったほうがイメージがわきやすいです。

会社はその中にいる人たちによって支えられていますから、その働いた経験があるというのが優位に働くことはあります。しかし、eスポーツ、Youtube、はやりの音楽など30代以降のおじさんはついていけません。

流行は、いつも若い人たちから生まれてきています。流行とはお金が流れ込んでビジネスになるということです。それがお金儲けにも通じています。

世の中の流れを他の人より半歩先に捉えて投資できるかどうか。若い人は身のまわりの出来事をみているだけで流行を知ることができます。興味を持ってトレンドを捉える力に加え、基本的な財務諸表の見方などを覚えるは鬼に金棒です。

長期投資と短期投資の違い

短期投資というのは基本的にゼロサムゲームです。売買手数料や税金を支払わなければならない分だけ、マイナスサムとも言えます。また、ライバルが強くて個人投資家が太刀打ちできない場面も多々あります。

知力・体力・財力すべて太刀打ちできない、疲れ知らずのコンピューターと戦わなければいけないのです。あなたが見ている、そのモニターの価格変動の画面は取引を正確に表していません。目に見えぬ速度で何十回・何百回も価格が動いているのです。注文を出したところでその価格通りに執行される稼働かはわかりません。

もちろん、証券取引等監視委員会が不正取引をチェックしていますが、短期取引においては判別が難しいので、なかなかチェックしづらいというのが現状です。もちろん証券取引等監視委員会としては不正取引は全て見つけ出すというメッセージを打ち出すに決まっていますが、そもそも不正取引の定義があいまいなのですから、当然見逃されるものも出てきます。

不正取引は許されないものですし、証券取引等監視委員会や証券取引所の自主規制法人はベストをつくしていますが、現状としてわかりやすいインサイダー取引でもない限り、見逃されていて、そのような手口を使ってくる相手と戦わなければならないという考えで勝負しなければなりません。

長期投資は会社の成長に投資する

価格の変動に着目して投資しているのが短期投資でありますが、長期投資も当然価格の変動に着目はします。けれども、長期投資の場合それは結果であって、むしろ会社の業績が向上してくれるかどうかというのを見ます。

儲かる会社というのは優れたサービスを世に生み出し、消費者により良いサービスや商品をを提供しているからこそ売上が増えていく音です。そうして得た利益の一部を投資家はえることができる。その循環が我々の生活を支えています。儲かる会社を応援して利益を得ることができる

株式投資家は失敗しながら成長する

私自身の投資経験を振り返ってみても、一番役に立つのは自分自身の投資失敗体験です。失敗してから、この本を読むと理解が深まります。自分が失敗して得た教訓を、本で確認するというのが投資の正しいスタンスです。

一足飛びに株式投資は上達することはできません。まずは自分の資金を使って失敗する。そしてなぜ失敗したのかを考え、次はこの失敗を繰り返さないように学習し、投資を続けていく。このプロセスを何年も続けることによって、成功する投資家が生まれていくのです。どんな凄腕投資家も最初のころはヘマばかりやっています。

お金の必要性の四段階

まず自分の生活のために必要なコストを賄うという意味でのお金。次に将来発生するライフイベント・または予定外の出来事のために使うお金。そして、自分のやりたいことを実現するためのお金があり、最後に他人を助けるためのお金がある。

今話した順番でより自分の好きなように使えるお金です。1番目、2番目のお金の使い方は誰しも意識せずともやっていることです。(貯蓄ゼロ世帯というのは、2番目を意識していないということです)

しかし、3番目、4番目は実現するにはサラリーマン稼業をやっているだけではたまらないというのが私の実感です。私も10年以上同じ会社に勤めていますから、それなりに給料いただくようになり、生活にはあまり不自由していません。

それだけで何千万と資産を作ることができるかと言うとそれは無理です。やはり投資をしたければお金は増えません。そして、一度この増えたお金というのはあなたが自由に使うことができるお金です。使わなくとも、あるだけでも大変心強いお金です。

思い立った日に旅行に行くこともできますし、美味しいご飯を食べることもできます。また友人と飲みにいくのに値段が気になることありませんし、ゴルフも自由に行けます。家族へのプレゼントはあげられますし、両親に恩返しのプレゼントをあげることもできます。お金はよく切れるナイフと同じですから、うまく使えばみんなを幸せにすることができる。

まずは自分が豊かになり、幸せになる

でも、人を幸せにするには自分がまず幸せにならなきゃダメです。1番目、2番目のお金を稼がずに3番目、4番目に進むことはできません。本書で出てくるN 校の学生は、まだ高校生。自分でお金を稼ぐ必要がありませんし。目先必要となる教育費についても親が払ってくれるひともおおいでしょう(奨学金を借りて進学する方もいますが。)

こうした状況で投資で増やしたお金はどのように使いたいといわれても、生活費用としてのオカネを意識することがないから、3番目、4番目のお金の使い方に焦点が当たる。世界の貧しい人を助けたい、などの高いレベルでの自己実現欲求が出てきます。

それは高校生の段階では当然なのですが、実際に投資する算段になって、まず社会人になってやるべきことは、まず経済的な基盤を確立する。それも、なるべく早い段階で1番目、2番目を潜り抜けて3番目、4番目のお金の使い方ができるように頑張るのです。

そうすれば人生が楽しくなる。ほとんどの人は投資についての考え方が身に付いていないから 1番目、2番目で人生が終わります。

幸せの基準を持つということ

「足るを知る」ことはとても大切です。お金は計算上どこまでも増えるものですし、あれもこれもと言っていたきりがありません。どこでか、自分の形の幸せというものを考えた方がいい。

私はもうすぐ40になり、次第に物欲がなくなってきました。立派な家、車はいりませんし、株で貯めたお金があるので保険も不要。お酒が時々飲めて、美味しいご飯が食べられればそれでいい。

一方、知識欲はどんどん増えています。ですから、今ほしいのは考えられる時間、語学の勉強、そして自分が学んだことについて自分の解釈を施し皆様の役に立つ情報を発信するということに最近は集中しています。ですから人に会うお金や情報のためのお金は惜しみなく使います。

もちろん、これは私の考えであって、人それぞれにどのような満足するかというのは異なります。

しかし、何が幸せなのかを定めないといつまでたっても、1番目2番目のお金の使い方から先に進めない。足りない足りないと言い続けて一生過ごしてしまうことになりかねません。

投資の期待値について

村上氏の投資の真骨頂である、期待値理論。しかし、期待値については、高校生にすすめるのは正直あまり賛成しません。この発想を身につけるにはどれだけそのビジネスが儲かる可能性があるのか、ということを正確に判断するだけの経験がまず身に付いていないと難しい。

この概念を投資経験も浅ければ、社会人経験もない高校生に言っても理解しにくいと思います。価格変動を追いかける短期投資の方がゲーム的であって、若い人ならではの瞬発力を活かせる場面がある。

投資というのは、当然成功することもあれば失敗することもあるが一定の回数を繰り返すと期待値に落ち着くということですから、ある程度社会人経験が必要なのです。

もちろん村上さんは個人的には家族で期待値をやしなうトレーニングをされているとは思いますが、普通の若者がすぐ身に着けられる能力ではない。どうするかと言うと、最初に戻ってきて投資から学んでいくうちに自分なりのルールを作り出すということでしょう。

村上氏のバリュー投資法の留意点

村上氏の投資手法は、はいわゆるバリュー株投資というもので、財務諸表と比較して多くの価値ある財産を保有している会社に目をつけて、その会社が資産を有効活用しだすタイミングで株価の上昇を取りに行くという手法です。

 

村上氏は、御自分で積極的に株主提案を行い経営陣との対話を通じて経営陣に行動を促すということができるのですが、一般の個人投資家はただバリュー株を保有したとしてもその先に何か行動できるものというのはありません。いつ変わるかわからない会社の変化を待つしかなりません 。

投資は結局は教育次第

村上氏が、投資に大切なのは結局は若い頃からの教育だという考えに賛同しますし、ちいさいながらも自分で行動を起こしています。大人になってから一から投資を学ぶというのは素でに身に着けたお金に対するネガティブなイメージを払しょくするところから始まるので、時間がかかります。

ですからある程度自分で物事を考えられるようになり、かつ将来への進路も考えるようになる高校生にこのような授業をするということは大変有意義です。

私自身も今後もボランティア活動として中学生高校生向け入り株式投資セミナーを続けていきたいと強く思いました。

まとめ

何冊も村上氏の本を読みましたが、お金の4段階、期待値、バリュー投資、コーポレートガバナンスなど、繰り返し語っているところはそれだけ彼の投資哲学で重要な場面を締めていることなのだな、と実感できました。

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