書評

「相場師一代」(是川銀蔵著/小学館文庫)を読む

 

最後の相場氏と呼ばれる是川銀蔵氏の著書「相場師一代」を読んでの書評です。相場師という表現自体が、既に過去のものになりつつありますが本書を読めば彼が本物の相場師であったことがわかります。

あまりに商売の才覚にすぐれた人なので、私が直接まねできるものは多くありません。彼のように勉強をつづけることもできません。しかし、投資に関する基本スタンスにはやはり共通するものがあるため、

真似できない人生

彼は14歳で丁稚奉公にでて、ある会社に務めますが、勤務先が倒産。どんなに頑張ったところで、会社がつぶれてしまえば自分が頑張ってきたものはなくなることを悟り、自分で旗を上げることを志します。その後ロンドンに行くことを夢見て大陸に渡りますがおりしも第一次世界大戦が勃発。ヨーロッパ全土が戦地と化したために、中国で商売をすることを決意。軍隊に従って商売をする御用商人となる決意をします。

その後は成功と失敗を繰り返し、日本に一時帰国しますが、日本にいてもチャンスがないと見るや再び中国にわたります。軍隊で儲けるということは、いざというときには儲かったお金で軍隊に協力しなければならないということがわかるエピソードが盛り込まれています。

その後は鉄ブローカーとして活躍して財を成しています。

関東大震災で大儲け

関東大震災が発生した時にはいち早く、東京が壊滅状態であることを察知してありったけの金でトタン板を買い集めます。仮設住宅の建材としてトタン板が使われるため、需要が爆発的に増加して価格が上昇することを瞬時に計算したのです。ここまでの計算はできないにしても、実際の身の回りの変化から投のヒントは常に探りたいですね。

 

3年間の極貧・研究生活

その後は大恐慌の煽りを受けて倒産、3年間の勉強生活に入ります。極貧のなか、この経済不況は一時的なものであり資本主義社会は復活するとの確信を得るに至った是川氏は再度勝負に打って出ます。是川氏が資産を作るために選んだのは株式投資でした。

当時の株式投資は個人投資家が中心で、投資家のレベルが低かった。やはりレベルが低いところで戦うのが勝つコツです。一人で何年も徹底的に経済を勉強した是川氏が相場で勝ち進むのはまさに赤子の手をひねるようなものだったでしょう。

戦争末期に朝鮮に渡り、戦争のため製鉄所を建設

その後も勝ち進む是川氏でしたが、独自の分析の結果欧米諸国が軍事力を増強し続けてきたことがわかります。戦争で戦力の基礎となる鉄鋼の年間生産量が、米英ソ1億トンに対して日本は600トン。長期的に圧倒的に不利であることを軍部に訴えつづけます。

みすみすこのまま日本が負けるのを眺めているわけにはいかない、もはや株をやっている場合ではない、と朝鮮に渡って鉱山開発と製鉄所を経営します。

戦時下の経済は平時とは違います。軍需物資を調達するためには人手やカネをあらゆる方法でかき集めることが正当化されます。

実際に利益が出ていなかったようですが、それでもお金を借りまくって経営したようです。戦争に勝てば国策会社なのでうまく始末がつけられるし、戦争に負けたら通貨価値は暴落し、会社は倒産するのでうやむやになる。やるしかないという状態だったのでしょう。

戦後はすべてを失い、戦犯として死刑となることも覚悟していた是川氏でしたが、日本人と朝鮮人を平等にあつかっていたことから、朝鮮人から助命嘆願運動が起こり、司法当局は是川氏を絞首刑から守ったのでした。

株式相場について個人投資家が学べること

是川氏が株式相場で名をはせたのは還暦を過ぎてからのこと。そんな是川氏の投資訓から、一般の個人投資家が学べる点をご紹介します。

株は利殖なら確実な面もあるが、過度のレバレッジが効いた投機はつづかない

株式投資は短期であるほどゼロサムゲームの様相を呈してきます。特にレバレッジの効いた投資をしている人は4年から5年は運が味方して生き残ることもあるが、相場師はだいたい消えてなくなる。

現代においても、ブログやTwitterで連戦連勝を続ける個人投資家も、いつの間にかいなくなっているということがあります。生き馬の目を抜くような短期投資の世界で勝ち続けることがいかに難しいかということです。

最後は勝ち逃げが必須

是川氏がこれを書いたのは晩年ですが、お金を全く持っていないどころか無一文になっていたのは意外でした。これだけの大相場師で、何十億も稼いだのに今は全くお金がない。税制度のせいもあるのでしょうが、どこかで相場は勝っている間に引退しなければ、いつかは取られてしまうのかもしれません。

当時の苛烈な証券税制と比較して、現在は株式に対する税率が2割。是川氏が生きていたら、うらやましがったことでしょう。

体に気を使う

人間が長生きできないのは不養生にあり、ということで酒と女は若いころにやらないと決めたそうです。一度決めたらテコでも動かない是川氏は生涯これを守り、実際に94歳という大往生を遂げました。

経済に永遠の繁栄もなければ、永遠の衰退もない

自然的な経済成長の波動の中で、株価が上下するのは当然のこと。景気の波を読むことで、資産を増やすことができる。

景気を読む力が株式投資には求められるのですが、この原則をどこまで株式投資に落とし込むかですね。ここまで真剣に極めなくてもドルコスト平均法でインデックスファンドを購入し続けるという方法もありますし、成長株という手もあります。

勝ちすぎるとルールが曲がる

是川氏はアメリカの金本位制廃止を見抜いたことで利益を得たが、余りにも株価が暴落してしまったがために、救済案として金本位制が廃止される前の取引所価格で決済されることに。

株式投資は買って、売って、休む。

これが、商売で成功する三筋道といいます。何も株式投資に限ったことではなく、商売全般に通じる考え方ですね。人が気づかぬところに目を配り、人が気づく前にどれだけ早く行動しているか。

カメ三則

是川氏の株式取引手法はカメ三則と呼ばれるものです。それはまさにウサギとカメでいうところのカメに成りきるということ。じっくりと時間をかけて買っていくのです。

①銘柄は水面下で優良銘柄を仕込んでじっと待つこと

②経済、相場の動きからは常に目を離さず自分で勉強する

③過大な思惑はせず、手持ち資金の中で行動する

これを見て面白いのは、彼が投資で失敗したときはやはり、このルールを守っていなかったことが多かったようです。わかっていても信用取引でレバレッジをかける、勢いよく高値で上昇しているところでさらに株を買ってしまう、など。

人生2度や3度のチャンスはある

株式投資にかかわらず、チャンスというのは必ずやってきます。私も細いチャンスをいかして出版という機会を得ることができました。チャンスはわかりやすい形でやってくることはなくて、ピンチのようだったり、軽い気持ちで始めるものだったりします。

私の場合には、セミナーを1度やってみるか、という軽い気持ちで始めたのですがそれを継続している間にここまで続けることができました。あのときチャンスの糸をつかまなかったら、今の私はない。

手持ちの現金投資にしておけ

株式投資をするサラリーマンに金言を更に残しています。まず一つ目は現物投資に限定すること。現物投資ならば、どんなに塩漬けになったところで退場はしません。

株式投資で最初にうまくいった投資家ほど、さらに儲けを増やすために信用取引に手を出すケースが少なくなりません。一度信用取引の値動きの激しさを知ってしまうと、現物取引には戻ることができません。

ニュースにとびつくな

これまた当たり前のことながら、わざわざ是川氏が書いているということですから、いかにこの過ちを犯して失敗する人が多いのかということでしょう。焦りからポジションを取ってもいいことは何もありません。今しかないような気になりますが、相場はいつでもやっているのでまたチャンスを待てばいいのです。

是川奨学財団を設立

こうして相場に生きた是川氏ですが、残ったお金を使い、金銭的に恵まれない子の教育環境を整備するため、是川奨学財団を設立しています。この財団は今も活動しています。

まとめ

是川銀蔵氏の生涯は波乱に富んでいましたが、94歳まで大往生を遂げられたのは素晴らしい幸運ですね。もちろん当人の節制もあったでしょうが。

株式投資でやるべきこと、やらないことというのは、時代が変わってもある程度共通しています。カメ三則の通り勝負すれば、あまり痛い目を見ることはありません。

もちろん上がる可能性が高い銘柄をポートフォリオに入れることは大前提です。

 

人の先を半歩みて仕掛けること、その勉強を欠かさないことが大切であることがよくわかる一冊でした。

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