書評

人生100年時代のらくちん投資(渋澤健, 中野晴啓, 藤野英人(著)/ 日本経済新聞社)を読む

『人生100年時代のらくちん投資』を読みましたので感想を書きます。

(本の概要)

積立投資による長期資産形成を説く投資本です。独立系ファンドを運営している著名運用責任者3人が、資産運用における積立投資の有効性を説きます。そして、それぞれのファンドの特徴、なぜファンドを設立したのか、について解説し、最後は長期投資に関する鼎談でまとめています。

いでよ草食投資隊

この本の著者はいずれも独立系の投資信託運用責任者として有名です。長期積立投資の伝道者として、長年地道な活動を続けてきました。キャッチフレーズは草食投資隊。

金融業界は、顧客を食い物にしてのし上がる業界です。顧客を損させようと、会社に利益をもたらしたものが正しい。このような肉食型の職場で働いていた彼らだからこそ、穏やかな資産運用スタイルを主張します。顧客と同じ船にのって資産形成ができる、という信念を表しているのが草食投資隊というフレーズなのです。

責任者の名前をしらなくてもひふみ投信、セゾン投信、コモンズ投信など投資信託運用会社名を見たことはあるでしょう。それぞれ簡単にご紹介します。

藤野 英人氏(ふじの ひでと)

野村アセット、ゴールドマンサックスアセットなどの投資信託運用サイドで長年中・小型株の運用を手掛ける。提起的な人事異動で、本人が得意な分野の投資に注力できないことから顧客本位の直販型投資信託を開始しています。音楽演奏のほか多彩な趣味をお持ちです。また、『スリッパの法則』など個人投資家が直接個別株を買うのに役立つ著書も多数。

渋澤 健氏(しぶさわ けん)

渋沢栄一の玄孫に当たる方で、もともとはヘッジファンド出身。相容れない業界だと考えていた長期投資とヘッジファンドに、理念を共有する顧客とだけ取引をするという共通点を見出し、商売を鞍替え。コモンズ投信を設立しています。

中野 晴啓氏(なかの はるひろ)

セゾンにて、債券売買業務に従事。その後顧客のために長期的な資産形成の必要性を確信。セゾンの従業員であったことから、ことあるごとにセゾンの経営陣に対して独立系投信の設立を主張し続けます。機会があり投信の設立がかない、いいだしっぺということで代表取締役に就任。以後、セゾン投信を率いて積立王子として活躍しています。

それぞれ哲学は違いますけれども、独立型の投資信託を販売しているという点では共通しています。彼らが投資信託を販売し始めたころは積立投資、インデックス投資は今ほど市民権を得ていませんでした。それでも長期的にこのサービスを提供することは、必ずや一般のサラリーマンのためになると信じてこのサービスを提供してきたのです。

さわかみファンドが独立系投信の元祖

実はそれぞれの3人はさわかみファンドの創始者澤上篤人氏の影響を受けて、それぞれ直販型投信を開始しています。今では独立系投信の販売が全く人気がなかったなど考えられないことですが、20年前は絵空事だったのです。

積立NISAがある今では信じられませんが、金融庁も疑り深かったのです。これまで何の実績もない独立系の投資信託会社に顧客資産を預けさせて大丈夫か?という心配をしていたのでしょう。

彼らは澤上氏の応援を受けながら、しぶる金融庁を説得して投信業者としての認可を取得しています。熱量がおおきい澤上篤人氏がいなければ、独立系の投資信託が世に出るのはあと10年遅れていたかもしれません。

資産を増やすアプローチはそれぞれ

株式をアセットに組み込む独立系投信は、最終的には顧客資産をリスク資産に投下して増やすことを目的としていますけれども、資産形成のアプローチが違います。資産形成という山に登るのにどのようなコースをたどるのかが異なるのです。

日本株中心に成長株投資をしているのがひふみ投信。

コモンズ投信は長期保有できる日本株を30に厳選しています。

セゾン投信のセゾン資産形成の達人ファンドは、世界中の株式ファンドに投資するファンド・オブ・ファンズ形式を採用しています(セゾン投信は債券と株式を半々に組み入れた、セゾン・バンガード・グローバルバランスファンドも販売しています)。

それぞれのファンドについてはまたページを改めてご紹介しますけれども、どのファンドによって資産形成するかは、山登りの方法が違うだけです。どれか一つに決めなくてもいいので、複数ファンドを保有してからしばらくして本命のファンドを選んでもいいですね。

投資家に支えられているファンドはつよい

日本の投資信託には、構造上の欠点があります。会社が投信を作っており、投信運用会社はその系列傘下にある。販売会社が投資家に売れる商品を作るよう運用会社に指示をだし、その商品を販売会社がグループの証券会社を通じて投資家に販売するという流れがあるのです。

その時売れるテーマで投資信託を作りますから、どうしても高値掴みになってしまう。短期間で大きく上昇した銘柄は旬が過ぎれば調整期間にはいるものです。そうした銘柄で構成されているファンドは価格がじりじりと下がっていく。

投資家に対して、また証券会社の営業マンは違う投資信託に乗り換えるよう提案します。さすがに最近は露骨な乗り換え営業は慎むようになっているようですが、証券会社の系列投信がやっていることは基本的に変わりません。

乗り換えの場合には顧客資産を売却しますから、常に一定の解約に伴う売却が生じるものとして運用することをファンドマネージャーは求められます。とても、腰が据わった投資はできません。

また、相場が悪くなってくると、買い増しするどころかこれまた乗り換え営業をするわけですからファンドマネージャーは相場が安いとわかっていても売却しなければなりません。

腰が据わった資金流入は百人力

一方、顧客が長期投資の理念に賛同している投資家は、安いところでも顧客の解約を恐れる必要がありません。毎月定額をコツコツ投資に回してくれるのでファンドマネージャーも長期的な視点で投資に臨むことができます。

この本を読んで、私は自分が言いたかった言葉を見つけました。そう、投資信託のファンドマネージャーがいかに優れていても、ファンドを信じて下落局面でもお金を投じ続けてくれる顧客がいなければ腕の振るいようがないのです。

いい寿司屋は、腕がいい板前がいるだけでは成り立ちません。定期的に来てくれるカネ払いのいい常連客がついているからこそ繁盛する。

投資信託でも全く同じなのです。顧客は自分の力が微力に感じるかもしれませんが、毎月定額を投下してくれること自体がファンドマネージャーにとって大きな力になります。

その信頼関係を作るのは、長期的なパフォーマンスの向上です。下がった時も買い増しを続けるという方針を取っていてもパフォーマンスが付いてこないと投資家も疑心暗鬼になります。これらのファンドはそれぞれ苦しいところを乗り越えました。

資産を継続的に顧客に投下してもらって投資資産が増えてきたという過去の記録(トラッキングレコード)を示すことができるようになり、預かり資産が伸びています。

自分が向いている投資スタイルを知るのに最適

この本を読むことで、自分がどの投資スタイルに向いているのかがわかります。特にインデックスファンドだけでなく、アクティブファンドに興味がある人は読んでみることをお勧めします。

アクティブ投信は、投資家が投資責任者の運用哲学に共感して資産を託すものです。成長性の高い銘柄の選択眼を楽しむか、グローバル経済の大きなうねりに乗るか。

誰がどのような想いであなたの資産運用をしているのかをしることで、資産を増やすプロセスも楽しめるようになること請け合いです。

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