書評

映画「マネーショート」の金融用語を解説

2015年に話題となった映画「マネーショート」をアマゾンプライムで見ました。

この映画、金融の基礎知識があればとても面白いのですが、さらっと難しい専門用語が登場するので、そこで引っかかってしまう人も多いでしょう。そこで、このページでは劇中に登場した主な金融用語について、映画での意味も含めて解説します。

※ネタバレを含みますのでご注意ください。

邦題『マネー・ショート』に込められた意味

マネーショートの邦題のショートとは、足りなくなるという意味ではなく、そして金融商品の取引方法には大きく分けて2つの取引方法があります。価格が上がるともうかるロングポジション、価格がさがると儲かるショートポジションです。

ロングポジション

これは現物の株式投資を思い浮かべてもらえるとわかりやすいです。株式投資で保有している株が2倍になって儲かった。トヨタの株を100株買っていて、1万円の株が2万円になった。これがロングが儲かるパターンです。

しかし、株はいつも上がるばかりとは限りません。この映画が背景としてる2007年~2008年にかけては株価が一時的に暴落しました。アメリカだけでなく日本株式も大きく調整したのです。下落する場面では儲ける方法がないのかといえば、あります。それがショートという戦略です。

ショートポジション

ショートポジションは株式などの有価証券が下がると儲かる投資手法です。いわゆる空売りといわれる投資手法です。ショートポジションを作るには、誰かから株式を借りてこなければなりません。

これは日本だと信用売りが該当しますね。トヨタの株式を空売りしようと思ったら、貸してくれる投資家から株券を借りてきて、それを市場で売却します。そして、目論見通り株価が下落したところで5000円で買い戻す。株券の貸し手に対してレンタル料を支払わなければなりませんが、それ以上に大きく下落すれば儲かります。

ロングとショートの意味するところ

ロングポジションは手持ちの現金で保有している限りは永遠に保有し続けることができますし、いくら損をしたとしても塩漬けになるだけで、それ以上の損失は発生しません。上がった時もいつまでも保有することができるのです。

一方ショートポジションは、借りてきて売るものだからいずれは市場で買い戻して借り主に返却しなければならないから、期間が限られている=ショートと呼ばれるようになったという説が有力です。

そのほか空売りは不足しているもの(Shortage)を借りてきて、売却する手法だからShortと名付けられたという説もあります。株などの有価証券を保有するスタイルはその反対だからLongというわけです。

ロング・ショートの覚え方

どちらかの説ということはなく、複合要因でロング、ショートという呼び名ができたようですね。

ところでこのロング、ショート。円安、円高と同じで最初はどちらがどちらかわからなくなる方もいるでしょう。

そういう方はまずショートだけ覚えてしまいましょう。この映画をみて、値段が下がって儲かったのがショートの取引だったから、で大丈夫です。知識が固まってくると反対のロングの考え方もわかるようになってきます。

MBS(モーゲージ担保債券)

この映画を理解するにはどうしてもサブプライムローンについての基礎的な知識が欠かせません。そこで簡単にその仕組みをおさらいしてみましょう。

銀行が住宅ローンをそのまま債権として抱えている時には何も起こりません。銀行から顧客はお金を借りて、定期的にお金を銀行に返済する。それだけの話です。

ところが、ある時丸々という男がこの住宅ローンを金融商品にしたてることを想いつきました。その男の名前はL・ラニエーリ。彼は住宅ローンを債券としてひとまとめにして、長期間の運用先を探している投資家に売り始めたのです。

長期運用をする機関投資家が飛びついた

世の中には顧客からお金を長期間預かって運用している主体があります。年金ファンド、生命保険会社、損害保険会社、大学の基金など、様々です。年金ファンドは将来的な年金の支払いに備えて預かっている資産を増やしています。我々の年金もGPIF(年金ファンド)が運用しています。50兆円にもわたる資産が国内株式で運用しています。

生命保険・損害保険も前もってお金を保険契約者から預かりますから、そのお金を運用して増やすことで経営体力を増やし、いざというときの支払い能力の向上に備えています。

さて、住宅ローンは手堅いですが、銀行からするとそれ以上発展性がない。ここまでエゲつない商売を好まないせいなのか、日本では住宅ローンを流動化した商品は発展しなかったのですが、米国では大規模に金融工学を使ってMBSという形で発展してきたのです。MBS(モーゲージ抵当付債券)は、住宅ローンを束にして債権化した商品です。

ファニーメイ、フレディックといった、米国政府系の金融機関が銀行からこれらの資産を買い取り、パッケージ化して、期間投資家に売り出したのです。長期国債を買うよりも金利が高く、格付け機関による格付けも高い。住宅市場自体も値上がりが続いている、という事情を背景として機関投資家の間でたちまち人気商品となりました。

劇中では、冒頭ミシガン年金基金が2000万ドル、もう一声といわれて2,500万ドルのMBSを購入していますね。

住宅ローンはそのレベルに応じて、ランク付けされている

一口に住宅ローンといっても、借りての信用度に応じて金利が違います。安定した勤め先がある人からそうではない人まで多様な取引先がいます。信用度が高ければ金利は安くなりますし、逆に信用度が低ければ高い金利を払わなければなりません。

信用度が高い人たちは返済が滞る可能性をあまり織り込まなくてもいいのですが、信用度が低い人たちは確実に何パーセントかは借金(住宅ローン)が払えなくなるので、その分金利が高くなるのですね。

MBS、CDO、CDSを格付けしたS&P

思ったように値段が下がらないことに腹を立てた丸々は、格付け会社に突撃します。そこでS&Pに問い詰よって、逆に狙いを見透かされて退散と相成るわけですが、はたしてさてこのS&P(スタンダードアンドプアーズ)とは何者か。

S&Pとはムーディーズとならぶ米国に本拠を置く格付け会社です。株式投資のインデックス、S&P500を発表している企業といったほうがわかりやすいでしょう。債券が大量に発行されているわけですが、その信用度合いがわからないと安心して取引できないですよね。

自分たちが知っている会社であればいいのですが、全く知らない会社の場合もある。ただ、信頼できる格付け会社が、債権が返済されない可能性はどれくらいあるのか、いわば元本が返ってくる信用度がどれくらいあるのかをランキングにしてくれると売買がしやすい。

元本が返ってこない可能性を示すのが格付

格付機関によって表現は異なるのですが、格付けはAAAからCCCまで分かれています。機関投資家の投資適格なのはAクラスや、BBBクラスまでです。それ以下の債券はリスクが高く買わない、という社内ルールを設けけている会社があります。格付けがないとその判断ができないので困ってしまうのです。

債券を売買する投資家だけでなくて、発行された債券を担保にとる銀行としても安全性をチェックするために格付けを知りたいというニーズがあるのです。そこでS&Pは債券の格付けを独自に調べてランキング付けしてきました。格付けが高いほど、債権が無事に償還される可能性が高いことを意味しています。

最終的にCDOを購入する投資家は、権威のあるS&Pが高い格付けをつけているのだから、問題ないだろうと判断して購入したのです。

最終的な投資家といっても、我々のような個人投資家ではなく、多額の資金を運用する責任があり、独自に対象となる金融商品の信頼性を調査することができるスタッフを抱えた機関投資家です。

しかし、最終的な意思決定にはS&Pの格付が内部・外部の関係者を説得するのに役立ったことは間違いないでしょう。わが社が買おうとしているMBSは、「AAA」が付いている商品だから、大丈夫だという具合です。

債券の発行側はお金を払って格付けをもらう

債券を発行する側は、S&Pの格付けが付いていれば販売が楽になりますからお金を払ってS&Pに格付けを依頼します。

銀行から持ち込まれた債券(CDO)について、「AAA」の格付けを拒むことはできなかったのです。もちろん銀行は格付けを取得するのに、S&Pにお金を払っています。住宅市場のバブルが崩壊しているのは目に見える変化なのに、S&PはMBSの格付けを変えません。これについてS&Pの担当者は途中で本音を漏らしています。

仮に低いグレードをつけてしまうとライバル会社であるムーディーズに行って、お金を払って格付けをもらうでしょうし、望み通りの格付けをもらえなければ次の仕事は銀行からもらえません。

マークがヒントをつかんだLTVとは

延滞率の上昇からヒントをつかむ 主人公の一人、サイオンファンドをまかされている、変人トレーダーであるマーク博士が、LTVを調べているシーンが出てきます。

通常であれば保守的に見積もって住宅価格よりも大きなお金を貸すことはありません。3000万円の価値がある物件であれば、2,500万円程度を貸すけれども500万円は自分で用意してもらうというようにで、頭金を用意させるのが一般的です。

ところが住宅バブルが発生する過程では、カネを貸す立場の銀行が弱くなります。どういうことか。誰もが住宅価格の先行きに強気になっている場合には、ライバルである他の銀行との競争上、ゆるい条件で融資をしないとほかにお客さんを持っていかれる。わかっていても、頭金なしで融資する場面が増えてきます。

LTV上昇は相場が終了するサイン

そのLTVが95%、100%を超えてきている。これは、住宅価格の上昇に歯止めがかかりだしていることを示唆しています。これまでは、一時的に高い割合となってもすぐに住宅価格が上昇するからLTVが80、70と下がっていく。

住宅価格が上がっていけば、銀行融資の健全性は保たれる。3000万円の物件にたいして3000万円のお金を貸しても、数年後に不動産の価格が4000万、5000万と上昇していけば、問題ない。仮に借り手が返せなくなったとしても、不動産を売却すれば住宅ローンの未回収分は、売却代金から回収できるという算段です。

しかし、住宅価格が頭打ちになると、この神話が崩れます。

主人公のマークはモーゲージローンの価格を調べだします。明らかに相場の転換点を示すサインが2007年の時点で点灯しだしていたのです。誰もが目を凝らしてみれば気が付く話かもしれませんが、不動産の価格が高騰している陶酔感が続く中ではこの景気減退はしばらく「調整局面」として無視されたのです。

サブプライムとは?

さてサブプライムローンの話に入りましょう。劇中にあったとおり、当初組成されたころのMBSはシンプルな構成でした。返済能力を持った顧客の住宅ローン(プライムローン)だけで構成されていたのです。

ところが、時代がくだり、2000年代前半、不動産価格が次第に価格が上昇してくると、これまでは買えなかった人たちにもローンの道が開かれていきます。もちろん、プライム層とは同じ条件で借りることはできませんけれども、それでも頭金なしで住宅が購入できるようになったのです。

返済がうたがわしい属性の借りてとして、移民、ストリッパーなどが劇中では例示されていますが、彼らに対するローンのことをサブプライムと呼んだのです。サブプライムとは言いえて妙な表現です。プライムとはいわないけれども、プライムに準じるぐらいの安全性があるという言葉の響きを醸し出しているのですから。

CDOとは何か?

ここら辺からわかりにくくなってきますね。CDOとは多数のMBSを混ぜ合わせて作った証券です。ざっくり言えば住宅ローンを債券にしたものがMBSで、そのMBSを小分けにして様々な債権と混ぜ合わせたのがCDOです。福袋と考えてみるといいでしょう。福袋にはいい商品も入っていますが、売れ筋ではない変な商品も入っている。

住宅ローンの一部は焦げ付く(住宅ローンの払い手が払えなくなり、回収不能な不良債権となる)全体としては、払う人のほうが圧倒的に多数だから元本と利息は確保されるという宣伝文句だったです。

混ぜてみると安全性の高い商品だということで、最高の格付けをつけていたのがS&Pやムーディーズという会社でしたね。高い格付けが付いていて、利回りが高い金融商品は、安定した資金を運用したい機関投資家にとって大変魅力的に映りました。

これは今の私たちに置き換えてみるとわかりやすいでしょう。現在の日本では超低金利が続いており、銀行の定期預金に入れていても大して増えません。困っているところに年間の利回りが1%、2%といった社債(会社が直接投資家からお金を借りる契約を債券という形であらわしたもの)が出たらどう思いますか?しかも格付けが高い。

その会社があまり聞いたことがない会社だったとしても、普段取引している金融機関で営業を受けて、かつ格付けがAAA(最上級)ですよ、とささやかれたら思わず飛びついて買ってしまうでしょう。株式市場は不安定だからお金を投じることができない人でも、確定利回りという言葉には大変弱い。それと同じことが起こっていたのです。

CDS契約

CDOの知識がわかったところでCDS(Credit Default Swap)についてもお話ししましょう。クレジットデフォルトスワップはデリバティブ取引の一つ、いわば保険です。

CDSの買い手と売り手は、保険会社と保険加入者の関係

劇中で、当初丸々がゴールドマンサックスやモルガンスタンレーなどからCDSを購入するときに、先方の支払い能力を心配していることが描かれています。これも少しわかりにくいですね。

こういう時は身近な例を使いましょう。ゴールドマンサックスが損害保険会社で、丸々が保険の買い手だと考えてください。そして地震で建物が損壊した場合には補償を受けられる10年契約を締結したとします。

保険加入者としては、相手方がいざというときに保険料をちゃんと支払ってくれるか、支払い能力があるかどうかを確認したい。仮に地震保険に入っていて、その損害を補償してくれる損害保険に加入していたとしても支払ってくれなければ、保険契約は「絵に描いた餅」です。

CDS契約も基本的な構造は同じです。保険の買い手であるマイケルは、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーの支払い能力に疑いを持ち、いざというときにCDOの元本価格の補償が受けられるかどうかを気にしていたのです。劇中では、都度払いにすることでリスクを減らす提案をゴールドマンから受けており、マイケルはそれを受け入れています。

ジャレドは何をしていたのか?

ライアン・ゴスリングが演じるジャレドは、取引先にCDSを販売するギラギラした銀行員として描かれています。映画中で時々ナビゲーターとして時代背景を解説することもあり、いわば時を超えたキャラクターの側面も持ち合わせています。

銀行員ではありますが、どちらかというと保険の外交員ととらえたほうがわかりやすい。プルデンシャル生命のようなフルコミッションの保険営業マンです。

彼自身はサブプライムローンで底上げされた不動産ブームが早晩、終焉を迎えることに気づいていました。銀行員の彼は自分自身でCDSを買って、儲けることはできない。しかし、なんとか来る住宅崩壊バブルにのって確実に儲けたい。そこで彼は銀行の経営陣をこうやって説得したのでしょう。

「顧客の中には、当社が組成したCDO(住宅ローン債権などが混じった複雑な金融商品)で、S&Pの格付けがBBBなど低いものについて今後予定通り返済されるかどうか疑っており、ヘッジしたいという顧客がいる。そこで彼らに対して『保険契約』を販売することとしたい。』

『BBBクラスの100万ドルのCDOに対して、保険料として毎年3%をもらう契約にすれば、銀行としては毎年100万ドル×3%=3万ドルが追加収益となる。私は歩合としてその20%、すなわち3万ドル×0.2=6,000ドルをもらいたい』

と掛け合ったのです。銀行の経営陣はよもや住宅市場がバブルで崩壊するなどとは夢にも思っていないでしょうから、この取引は銀行の収益を増やす素晴らしい提案です。この提案はもちろん採用されました。

おいしそうに見えたCDS取引

銀行からすると、CDSはあまりにもおいしい取引に見えたことでしょう。ほぼ発生する可能性がない、確実に売り手(ゴールドマンサックスなどの銀行)が儲かる宝くじを販売してくれといわれたのですから。

マイケルがCDS契約を締結して、部屋からいなくなった瞬間に、ゴールドマンの担当者がそれまで作っていた真顔を崩してお互いに大笑いしていたのは、そういう理由があったのです。

カネのにおいに気がついたジャレドは、住宅市場が崩壊するのは間近で、CDSで一儲けというストーリーに乗ってくれるヘッジファンドにこのCDSを販売しまくった。ユダヤ人のヘッジファンド・マネージャー、マークにドイチェ銀行のケースに入れたジェンガのような積み木を使ってのプレゼンテーションのシーンがそれです。

そして、ジャレドは売ったCDSの幾分か(20%?)を手数料としてもらう。そしてCDSを購入した先は、住宅市場が崩壊してCDSが値上がりすることで利益を得られる、という寸法です。映画の最後のシーンで、ジャレドが多額の現金が書き込まれた小切手を撫でているシーンがありますね。あれは、多額のCDSを売りまくったことを示唆しています。

バブルが崩壊すると、銀行が大損する

首尾よく住宅バブルが崩壊すると、だれが損をするのか?といえばそれはCDSを発行した銀行です。保険契約を販売したのと同じですから、実際に火災なり、地震なり、契約条件で定められた出来事が発生すれば保険の販売側がCDS契約に基づいて、CDOの元本を支払うことになるのです。

先ほどの100万ドルの額面のCDOを3万ドルで販売したという例を出しましたが、債券が支払われなくなることが確定した時点で、銀行にCDSを提示することで100万ドルを受け取ることができるというわけです。

なお、ジャレドはCDSの販売手数料だけをもらっているのですから、CDSが実際に発動されて、銀行が保証するかどうかは全く興味がありません。マーク率いるヘッジファンド連中に問い詰められるシーンであれだけ冷静なのは、自分はあくまでCDSを販売しただけで、直接の契約者ではないだという立ち位置だからです。

CDSの転売で利益を確定する

実際には債券が支払われなくなることが確定する前の段階で、CDSの価格が値上がりしますから、他社に転売することで利益を得ることができます。ただ、CDSの価格透明性がく、売買する人が少なかったことをいいことに、銀行はCDS価格を引き上げて提示しませんでした。

多数転売されてたのであれば、そこに市場価格が生まれて、相場なりの価格ですぐに転売することができます。ニンテンドースイッチは人気がある商品なので、多数転売されていますし、ヤフオクやメルカリなどで相場の値段が形成されています。

販売元である任天堂が、買取価格を提示しようがしまいが、転売することができますね。ところがニンテンドーの転売がなかったら?任天堂に価格を出してもらわないといけませんが、その価格は市場価格とは限りませんね。

また、CDSはあくまでCDOがコゲついた(お金が返ってこなくなった)場合の損失回避目的で使われる金融商品の側面が強かったためになかなか転売市場が動かなかった。相場は確実に悪化しているにもかかわらず、です。銀行がなかなか提示価格を引き上げない様子にイラつきが劇中に表れていますね。

ジェイミーとチャーリーがもうけたオプション取引

この映画の主人公の一人、ジェイミーとチャーリーの田舎の若者2人組がファープットのオプションで儲けた話が出てきます。

これまたデリバティブがわからない人には難しい概念が出てきました。オプション取引とは保険や宝くじと同じ類の取引と思ってください。売っているほうはまず儲かる。買っているほうは基本的に損をするのですが、時に大儲けすることがあります。生命保険の当たりくじは引きたくないですけど。

金融の世界でも、NYダウやNASDAQといった指数、そしてGoogle、Apple、Microsoftといった個別株でもオプション取引は盛んに取引されています。当時から活発に売買されていましたし、今でももちろん活発に売買されています。

下がった時に利益が出るような保険もあれば、あがった時に儲かる保険もあります。ここではその詳細についてはご説明しませんが、彼らが儲けた方法は、めったに起こらないだろうと思われる場面での保険料が安く設定されている機会を狙うということです。

コイン投げゲームで考える

一例として4枚のコインを投げて全部表が出た時に32倍のコインがもらえるゲームがあるとしましょう。コインが続く限り何度でもプレーしていいと言われたら、皆さんはこのゲームをプレーしますか?

私ならプレーします。勝つ確率は16回に1回と低いですが、当たった時にもらえる金額が32倍ならば期待値を出せば儲かるからです。

勝つ確率は1/16。この時は32倍もらえます。残りの15/16は何ももらえないのでゼロ。

とすると1回あたりの期待値=32×1/16+0×15/16=2。つまり1回プレーするごとにコインは1枚から2枚に増えるのです。

競馬の大穴を買い続ける

これがわかりにくければ競馬の大穴狙いの例でもいいですね。オッズが100倍の単勝万馬券になっている人気薄の馬がいるとします。しかし、これまでの傾向から見ると、このレベルの馬は50回に1回は勝っている。とすると、かけ続ければいつかは資金を回収できる。

このケースでの期待値は、100×1/50+0×49/50=2。正しく勝負し続ければ、これも「勝てる勝負」になるのです。

話は戻りますが、あの若者がプレーしていたゲームというのは、今コイン投げゲームや万馬券の例で示したように、証券市場で間違って値段がつけられているのを見つける戦略です。外れる可能性が大きいが、皆が思っている以上に発生する可能性が大きい価格変動(暴落・暴騰)を狙ったのです。

なぜ間違った価格が生じるのか?

なぜこのような価格が発生するかというと、人間は怒ってほしくないこと、普段起こらないことを実際の確率以上に低く見積もる癖があるからです。

あまりにも起こりそうなことを可能性として考えすぎると、積極的に行動することができません。通常時はうまく働く脳メカニズムですが、こと集団心理が現れる取引価格ということになると、間違った価格が発生する原因にもなっているのです。

長くなりましたが、彼らはこの戦略で当初の資金11万ドルを3000万ドルまで増やした。日本円で1,200万円を、36億円まで増やした計算です。そのお金をもって一世一代の勝負にでた、のです。

ISDA契約とは?

住宅市場が崩壊する―彼ら二人組もそれに気が付きましたが、マイケルやマークと違って、ツテがない。ただの若者ですから、おかねをいくらもっていても、CDSを売ってくれません。金融業界というのは排他的で保守的なところで、仲間として信用に足るだけのブランド・人・資産を持っていないと金融ムラには入れてもらえません。

彼ら若者2人は、必死にCDSを売ってくれる銀行を探しますが、どこも相手にしてもらえません。ISDA契約を締結しないとデリバティブ契約(CDSも当然含まれます)は締結してもらえないとすげなく若手投資銀行マンに門前払いをくらい、愕然とする二人。

さて、このISDA契約とは何でしょうか?これはInternational Swaps And Derivatives Associationの略です。デリバティブ取引は、取引所を通じて取引参加者同士がやりとりするのではなく、取引当事者がそれぞれ契約条件を交渉しあって、相対で取引条件を詰めて契約を締結するものです。

国債の売買も取引所がなく、相対取引で行われます。シンプルな国債の売買であればもめることはないのですが、契約条件が複雑なデリバティブ取引となると話が違います。

異なる国の間でデリバティブ取引が行われるとなると、お互いその取引が自社に不利な内容になっていないか、それぞれの国の法制度に即した内容になっているかを確認する作業が発生します。

国内相手の取引でもチェックするのですが、海外の取引先となれば、相手国の金融関連の法律も絡んできますので、より慎重にチェックすることが必要なのです。特に相手方が破綻した場合の契約関係に大きな契約上の注意が払われます。常に金融の世界の契約書は相手がお金を返さないことを前提としているのです。

ISDAデリバティブのひな形を使えば契約がスムーズになる

1回や2回であれば、都度取引の契約内容をチェックすることもありうるでしょうが、日々反復してデリバティブ取引をしているのに、契約書のチェックに多大な人的・経済的リソースをつぎ込むのは参加者にとって合理的な考えではありません。

そこで、デリバティブ取引をする際には、この取引ひな形に従って取引する、ここに書いてあることはお互い守るというルールにすれば、契約関係の作業が楽になります。個別の契約をそれぞれチェックしなくとも、ISDA契約だけ見ていればいいからです。

身近な例でいえば、住宅の賃貸契約をする際に、地方自治体が定めた不動産賃貸借契約のひな形を利用することが挙げられます。中立的な機関である地方自治体が作成したひな形であれば安心感がありますよね。

デリバティブでもこれと同じことです。ISDAというデリバティブ取引をつかさどる国際的な業界団体が定めたひな形を使うことでデリバティブ取引を簡単にしているのです。

それから映画中に出てきたISDA契約とは、ISDAのマスターアグリーメント(基本契約書)をつかった契約です。なお、実際の取引ではこのマスターアグリーメントに加えて、当事者同士の合意を書き込んだ付属覚書をセットにして契約書一式としています。

デリバティブ取引は、想定元本が多額になることから、それだけ大きな金額が動きます。詳しいことは省きますが、実際に動かす金額よりももっと多額の元本から生じるのです。

実際には取引相手としての格が足りなかった

ISDAに準拠した契約を、銀行との間で締結するためにはそれなりの格式のある金融機関、顧客でなければなりません。

その条件を満たすことができないので、ウォールストリートの銀行とコネがある、ブラッドピット演じる伝説のトレーダー、ベンに助けを求めています。お金はあるし、取引したいのに取引できないーこれが2人が悩んでいた事情です。

実際には投資銀行としては相手の信用度が足りないのでISDA契約を持ち出していただけでしょう。立派な会社とだけ取引するのがウォールストリート流で、いくらお金を持っていても一見客で、会社としての歴史も浅い若者二人はそもそも門前払いだったのです。

そこまで資産がなくともISDA準拠のデリバティブ契約を締結することは可能です。特にオプションの買い手のリスクは限定されているのですから。

ブルームバーグ端末

劇中では当然のように、オレンジと黒で文字情報が映し出されたり、チャートが表示されている端末が出ていていますが、あの端末は金融機関に特化した情報配信端末です。米国ブルームバーグ社のサービスですが、世界中の主要な金融機関で使われています。

金融機関のトレーディング部門に配属された人にとっては、携帯電話と同じぐらい当たり前にあるものですが、金融機関でもバックオフィスでは見ることは少ないです。ましてや金融業界以外にお勤めの人にとってはナゾの端末でしょう。

なお、私もかつて市場部門にいたときにはこの端末を利用していたことがあります。金融機関でトレーディングする担当者、事業法人でも財務部門で為替を取り扱う担当者は端末に名前を入力します。旧知の友人の名前をブルームバーグ端末で発見すると、驚いたものです。

情報の取得、チャットサービスが主な利用用途

市場部門の人間は何をしているのかといえば、ブルームバーグ端末を使って、取引している金融商品の情報を取得しています。また、取引先との間でチャットサービスを使っています。

金融機関同士の取引ではこのチャットサービスは20年以上前から利用されてきました。チャットサービスが仕事に使われるようになったのは最近ですが、即時性が求められる金融業界の仕事では、チャットサービスがよく利用されてきたのです。

金融機関は多数の個人情報を取り扱うほか、取引の情報が外部に漏れないよう情報の機密性に気を使っています。ブルームバーグは金融機関で使われることを念頭に置いたシステムなので、その点がしっかりクリアされているのがいまだに幅広く使われている理由です。

ブルームバーグ端末は一か月のレンタル料が20万円?

さて、あの端末は高性能で、コールセンターでもスタッフが手厚く利用方法を教えてくれるのですが、その分料金が高い。大手取引先には特別料金を出していることもあって、一台当たりの料金は公表されていないのですが、通常に契約した場合には約1台月額2000ドル(20万円強)が相場といわれています。

最近は新型コロナウィルス禍で、リモート会議が一般的になりました。一般の事業会社ではZoomやTeamsを利用するのが一般的でしょうが、金融機関同士ではCisco社のWebexというサービスを使うのが一般的です。Zoomには情報漏洩の可能性が指摘されており、情報漏洩をとりわけ気にする金融業界では、Webexを利用しているのです。

まとめ

ちょっと長い記事になりましたが、「マネーショート」で出てくる金融用語の説明、そしてどのように使われているのかを解説しました。この記事が、すこしでも「マネーショート」で何が起こっているかの理解の手助けになりましたら幸いです。この記事を見てから映画をもう一度見ると、見方が変わりますよ。

 

 

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