投資コラム

新生銀行とSBIホールディングスの戦いは続く

SBIホールディングスの申請銀行に対するTOBが話題となっています。TOBとはTake Over Bidの略で、大株主となって経営権を取得するということです。

もはや古い話となりますが、新生銀行は旧長期信用銀行、いわゆる長銀を源流とする会社です。破綻前の長銀はエリートコースでした。いまだに新生銀行で働き続けている人の中にはその意識を持っている人がいるかもしれません。

新生銀行に衣替えしてから早くも20年の時が流れていますが、経営統合を原因とするシステムトラブルがいまだに続いているみずほ銀行の例もありますし、旧行意識というのは簡単に抜けるものではないのでしょう。

今回は新生銀行とSBIホールディングスのTOBについて解説します。

着々と足場を固めてきたSBIホールディングス

SBIホールディングスは昨日今日、銀行業に手を伸ばしてきたわけではありません。経営不振に悩んでいる地方銀行との間で、地方創生を切り口に資本関係を強化してきました。

島根銀行、福島銀行、筑邦銀行、清水銀行、東和銀行、きらやか銀行、仙台銀行、筑波銀行とすでに8行との提携関係があります。

新生銀行と協力関係を固めてきたが

地方創生の分野では地銀だけではなく、新生銀行とも協力関係を築いてきました。地方創生とは、地方の経済を再活性化し、都心部へのヒトモノカネが集中する流れをとめて、それぞれの地方が住みよい地域になるように、特色を生かしながら新規事業の開始などの施策を進めていくことです。

それまで良好な関係を築いてきたSBIと新生銀行ですが、2021年1月にマネックスが新生銀行と包括業務提携の契約を締結してから風向きが変わります。SBIとマネックスはライバルですから、SBIとしてはこれまで協業してきたのに裏切られたと判断しました。

SBIホールディングストップの北尾社長は、新規事業をはじめることに貪欲です。強力な競合相手がマーケットに存在していれば、買収・資本提携・事業提携などの形で取り込むか、それを拒んだ場合には徹底的に資本を投下してつぶしに来ます。

今回SBIHDは、緩やかな事業提携をすることをもくろんでいたようですが、マネックス証券と新生銀行の提携が発表されたことを受けて、自社に取り込むことを決めたのでしょう。こうなったら徹底的に攻めてくるのが北尾流のビジネスです。

敵対的TOBの開始

SBIHDは2021年9月9日、最大の48%を買収することを発表。TOB価格は2,000円に設定しました。すでに19%の株式を保有しており、残りの30%を2000円で買収するとなると、約1,100億円が追加で必要となります。

これを受けて新生銀行の株式の価格は跳ね上がります。前日の終値は1,440円。市場で株式を2,000円よりも安い値段で購入することができれば、その株式をTOBに応募することで儲かるチャンスがでてくるからです。

公開買付のルール

それまで19%の株式を握っていたSBIは、金融庁に対して株式の買い増し認可を求めます。事業会社が銀行の株式を20%以上買い付ける場合は、金融庁の認可が必要だからです。

監督官庁である金融庁は、新生銀行側、SBI側どちらにも与することはできませんが、SBIHDは地方銀行との間で地方創生分野での協業をつづけてきました。そして業績を改善させる見込みが現経営陣にない以上はSBIの提案を無下に否定することはできません。

国が大株主

さらに今回のケースが特殊なのは、国が新生銀行の株主だということです。四季報を見てみますと、預金保険機構と整理回収機構が大株主に名前を連ねています。これらは国の機関ですから、実質的には国が株主なのです。

既に大株主である以上、完全に中立であるということはできません。株価を上げてもらう提案があれば、それに賛同し、結果として株価が上昇すれば公的資金が返済されるわけですから。

SBIに対しては、国が保有する分についてはTOBに応募しないという条件付きで、新生銀行に対するTOBを認めました。といっても、TOBを認めること自体がややSBIに有利ともいう見方もできます。

TOBを認めているわけで、新生銀行の経営権を実質的にSBIが握っても構わないということを示しているからです。

公的資金の返済が進まない

公的資金はなるべく早く返済することが求められるものですが、新生銀行の経営陣はこれまでその返済に回すだけの十分な利益を生むことができませんでした。

公的資金がすべて返済されるには株価が7,000円台まで上昇しなければならず、現在の2,000円以下では到底公的資金の返済は進まないのです。

公的資金が入っている状況では経営の自由度が下がります。事業方針や、利益の分配方針について都度、監督官庁である金融庁に報告しなければならないからです。

株式の価値を上げるには、企業価値を上げるしかないのですが、銀行セクター全般が評価されておらず、配当金を上げても成長性がないことからあまり上昇しません。

買収防衛策を発動する新生銀行

ともかく、SBIから「宣戦布告」を受けてしまった以上、新生銀行側もおちおちしていられません。SBIのTOBが予定通り締め切られてしまい、応募する株主が集まった場合には、SBIの影響力が強まってしまうからです。

そこで新生銀行は、SBIの敵対的TOBを回避するために様々な買収防衛策を考えます。

新株予約権型の買収防衛策が発動されるとどうなるか

買収防衛策が発動されると、新株予約権がSBI以外の株主に配られることになります。株主は新株予約権を使って株式を申し込むことができます。

今まで5人がそれぞれ100株の株式を持っていたとします。今回のように新株予約券が発動されると、買収しようとしてる株主以外にすべて1株につき1つの新株予約権が与えられます。

そうすると、4人は100株に加えて新たに100株の株式を保有することができます。買収しようとしてた1人は新株予約権が与えられませんから100株のままです。、それまで20%だった保有比率が11%に下がりました。

株主を平等に取り扱わないこうした新株予約権は、TOBを仕掛けている投資家からみると差別的な取り扱いです。こうした新株予約権を出すことが認められるのは、買収を仕掛ける側の買収目的が著しく合理的ではない場合に認められるものです。

ホワイトナイト(第三者が買収形式で救済)

そのほかの買収防衛策としては、新生銀行に好意的な株主を見つけて彼らに買収提案をお願いするということがあります。どうせ身売りするなら、いうことをある程度きいてくれる会社に買収してほしい。条件次第では、これまで業務提携を考えていた取引先が買収に動く可能性もあります。

この第三の投資家のことをホワイトナイトといいます。ピンチに颯爽と現れて救ってくれる騎士というわけです。かつてSBIホールディングスの北尾氏自身、ライブドアを率いるホリエモンがニッポン放送を買収しようとした際に登場したのでした。

ソニーGなどが候補として観測されていますが、すでに確固たる金融部門を持っている(ソニー銀行、ソニー損保、ソニー生命など)ので、不要です。シナジー効果が見込めるのであれば買収もありうるのかもしれませんが、なぜ収益性が低くて、しかもソニーの文化ではなく、新生銀行のカラーのついた職員がたくさんいる銀行を買収するのでしょうか?

買収防衛策に対する株主の見方は厳しい

かつて村上ファンドが活躍した時代、2000年代半ばは、敵対的買収に日本企業は大変おののいたものでした。各社はこぞって買収防衛策のプランを導入します。仮に経営陣に了解を得ない形のTOB、すなわち敵対的TOBが実施された場合に新株予約権を発行するなどして、会社の株式を過半数握らせないような手段をあらかじめ導入していました。

しかし、株主の立場から見るとこの買収防衛策というのは経営陣の保身に映ります。実際に買収防衛策を導入している会社は、株主との対話に否定的で、意見を積極的に吸い上げない会社というイメージがたち、機関投資家が購入しない傾向、すなわち買収防衛策を導入している会社の株価がさえないことがあきらかになってきました。

そこで、次第に上場会社は買収防衛策を廃止する流れが続いてきました。最大の買収防衛策は、利益をどんどん上げて株価を向上させていくことなのです。

事業で儲かったお金が適切に使われていれば、アクティビストに狙われて遊休資産の有効活用、または株主還元を求められる声は小さくなります。

今後の展開

新生銀行に好意的な世論というのはあまり聞こえてきません。公的資金を返していないということもあります。SBIの敵対的買収に対する買収防衛策が認められるのは、新生銀行がSBIのプランよりも優れた中期経営計画を持っていて、既存経営陣に経営を引き続き任せたほうが株主の利益になることを示さなければなりません。

新株予約権をめぐり法廷闘争はつづく

新株予約権が出るかはわかりませんが、SBIはルールを守ってTOBを仕掛けており、そのTOBを予防するための新株予約権の発行が認められるかは疑わしいです。先ほど触れた通り、これまでの経緯を踏まえるとそれなりに買収提案は合理的な内容だとおもわれるからです。

話がそれましたが、新株予約権が発行されそうになると、SBIは法的手段を取って新株予約権の差し止め停止の仮処分申請を裁判所に出すでしょう。この仮処分を認める決定を裁判所が出した場合、新生銀行はこの仮処分を取り消すよう訴えるはずです。

その後は、新生銀行、SBIのどちらに有利な判決が出たとしても、高等裁判所、場合によっては最高裁判所まで争うことになります。

この戦いは長引きそう

株主が株価の上昇だけに興味があるのだったらいいのですが、SBIHDは銀行業の分野に進出するための足掛かりとして新生銀行を見ています。地方銀行との協業から少しずつ外堀を埋めて、金融庁の内諾を得るところまで来たのです。したがって、この取引で短期的な利益を求めているわけではないでしょう。

SBIHD側はどうやって業績を向上させるかのプラン、そして買収価格というカードを切っています。それに対して十分な説得力のある反論を新生銀行経営陣が出せるかどうか。それを株主は冷静に見ています。銀行の買収には、金融庁の認可がいることから株主のプレッシャーを感じず、国のほうばかりを見て経営していたといわれても仕方がない状況です。

国はお金は貸してくれますが、いくら報告たところでビジネスについては素人同然なのです。自主自立で再生していくしかありません。今後の展開に要注目ですが、法廷闘争に持ち込むのは分が悪いうえ、株主の心証が悪くなることは新生銀行は覚悟しておいたほうがいいでしょう。

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