2020年1月23日のダイヤモンド記事特集は「航空・鉄道最終シナリオ」。ANA、JALといった航空会社や鉄道会社が苦戦しているという記事特集が組まれています。
新型コロナ禍で、人々の移動が著しく制限されることにより業績が著しく悪化するANA、JAL。今後も厳しい展開がつづきます。航空会社は経済活動において必要不可欠な存在ですが、株式投資という視点では実はそもそも投資に向いていませんので、私は投資しません。
安全基準を満たすためのコストがたかいうえ、参入障壁が低い。さらに10年毎に天災や事故が発生して、事業環境が悪化するからです。このページでは現在の航空業界の状況を概観しつつ、投資すべきではない理由について詳しく解説します。
航空業界への投資は株式投資はさけたほうがいい
まず申し上げたいのは、そもそも航空業界の株は投資に向いていません。これまでの歴史を振り返ってみると、約10年おきに事業者の不可抗力でビジネス環境が一気に悪化するイベントが発生しているうえ、規制があるために儲けることが難しいからです。
何度もやってきた業界への逆風
形を変えて、航空業界には10年ごとに大きな事件がやってきます。2001年の米国同時多発テロ、2003年SARS、2011年東日本大震災および福島第一原発事故、2020年の新型コロナウィルスと10年おきに大事件が発生します。
一たび事件が発生すれば、人々が移動することを見合わせるようになるため、急速に業界の景況感が悪化します。
航空業界の歴史は破たんと合従連衡の歴史
航空業界は思った以上に破たんが続いている業界です。ビジネスを続けるのに資本勝負の側面があるため、強者が弱者を飲み込む構造になっていくのです。
日本でもANAとJALの二大航空会社時代が続き、2010年代中頃から、ピーチ、ジェットスター、ソラシドエア、AIRDOなどLCC(ローコストキャリア)が次第に勢力を伸ばしてきました。しかし、結局は大手がつぶしにかかります。
競合路線ではLCCに対してダンピングを仕掛けてきます。羽田新千歳、羽田福岡といったドル箱路線では航空運賃が安いですね。
結局そうした安値のたたき合いでは経営がじり貧になります。他社の軍門に降るか、ジリ貧か。結局は大手航空会社のグループ傘下に入ることで経営が続いているというのが原状です。
安全性確保のための厳しい基準があるうえに、他社との差別化がしにくい
航空ビジネスは、顧客の命を預かる以上、非常に高い安全性が求められます。したがって、一度のフライトに必要なパイロットや客室乗務員の人数、スタッフの教育水準、機材の整備条件など必要な運航コストが多額になりがちです。くわえて燃料コストもかかります。
機材自体も年々劣化していくために、他社との競争上、定期的に入れ替えをしなければなりません。
一方、業界自体では他社からの参入障壁が低いことが特徴です。マイレージサービスでの囲い込みによって特定の航空会社をひいきにする顧客はいるかもしれませんが、それだけサービスの差別化が難しいのです。
東京から新大阪まで陸路で行こうと思えば、JR東海の東海道新幹線を使うほかありません。他の会社は東海道新幹線と同じサービスを提供することはできないでしょう。
しかし、羽田から伊丹空港へ空路で向かう場合、離発着枠があれば原則どの会社でも乗り入れることができます。必然的に価格競争が発生し、大きな利ザヤを取ることができなくなります。
ファーストクラスやビジネスクラスという、いかにも富裕層の意識をくすぐるサービスを展開していますが、結局はどのようなサービスをしても、目的地に着く時間は同じですし、他社との価格競争がついて回ります。そこで、他社よりも著しく高い料金を取ることは難しいのです。
こうした状況では営業利益や経常利益率を確保するのが困難です。
株主優待が魅力的である理由
ANAやJALは株主に対して半年に一度株主優待として、原則いつでも普通運賃から半額で航空券を買うことができる50%割引の株主優待券を付与してきました。
なぜ航空会社はこれだけ魅力のある優待券を発行し続けていたのか。株主優待券を発行すること自体が収益の悪化材料につながるにもかかわらず、です。10%や20%の優待でもよかったはずですがなぜ50%の優待を続けたのか。
それは会社の業績が不安定であることを、発行会社であるANAやJAL自身がよくわかっているからです。業績の浮き沈みに関係なく長期的に株式を保有してもらうため、個人投資家を引き付けるオイシイエサとして、株主優待を提供し続けてきたのです。
以上の理由から、航空業界の株式は個人投資家は購入するべきではありません。問題は立ち入らない方が、解決するよりもずっと簡単です。株式投資においてはどの銘柄に投資するかは個人の自由です。
今回の財務体質の悪化は確実に、企業をむしばむ
航空会社は事業継続のために銀行融資を引いています。今回は2020年の11月JAL、ANAともに巨額の公募増資に踏み切りました。新株式の発行なので会社は調達した資金を株主に返済する義務はないのですが、その分利益を圧迫する原因になります。
赤字が続く現在、株主から払い込んでもらったお金は、ジュッと音を立てて毎日消え続けています。ダイヤモンド社の試算では、キャッシュバーン(現金が燃えると書いて赤字が続く様子)1か月に○億円。このままでは1年たたずにまた公募増資などを検討しなければならないでしょう。
借金ではなく、公募増資を選んだということはお金を返済する必要がないということです。事業を続ければ続ける程苦しくなることがわかっている状況において、長期的に安定した資金を調達する必要があると判断したのでしょう。
苦境が続いても会社は継続する
航空業は現代社会において、必要不可欠な存在なので倒産したとしても、何らかの形で会社は生き残ります。例えば、巨額の公的資金が投下された東電のようにです。ただ、株式がそれだけ発行されていますから、一株当たりで見ますと、利益がでにくい体質になってしまいます。
一年の出来事が10年引きずる
今回の調達は大きくのしかかります。特に財務体質が悪いANA(JALももっと悪かったのですが、民事再生法適用時に右例にしてもらいました)は借金の返済がビジネスに大きくのしかかるのです。そして、10年後にまた大きな事件が発生する。これでは安定して儲けることはできません。
大空を飛び回る航空会社はロマンの塊です。旅人と同じく、その魅力に誘われてビジネスに参加する会社が後を絶ちませんが、商売として成り立たせるのはとても難しいのです。
ジリ貧だと思ってもあがくのが企業
正直、航空業界の現状というのは、私が社長だったらもう投げ出したくなるような事業環境だと思います。出来れば商売をたたんだ方が良いぐらいの逆風です。
事業環境は回復する見込みはなく手元資金が溶けるようになくなっていく。中長期的にもビジネス顧客の利用が減ることが見込まれこれまでのように拡大路線を進むことはできず、当面撤退戦。
しかし、それでも大きな借金や公募増資をして、企業は努力をするということです。つぶれそうな企業は徹底的にあがきます。株式会社は有限責任ですから、巨額の赤字が出ても投資家も損が限定されています。銀行も債権放棄により、損金算入ができますから、本音では仕方がないかと思っているはずです。
事業を変えているが、その効果は未知数
こうなった以上、長期的に事業を成長させていくにはより幅広い事業領域で勝負するしかありません。楽天のようなブランド戦略で、高いブランドイメージを使って生活のなかで常に触れてもらうようサービスを作っていく戦略です。
例えば、ANA保険、ANA銀行、ANA証券。冗談のようですが、他分野に進出するとはそういうことです。丁度ソニーも最初金融事業に乗り出したときには、同じようにみられていました。
まとめ
株式投資家はそもそもANAやJALといった航空業界の株式に投資をしない方が懸命です。業界構造自体の特徴として、運営コストが高いうえに他社との差別化が難しく、利益をあげにくいのです。
さらに、10年に一度は業界存続の危機となるような事件が発生し、その度に経営体力が大きく減殺されるからです。これは日本に限ったことではなく、世界中共通してみられる現象です。株式に投資する場合は、こうしたリスクを認識して投資することが大切です
株式投資・経済・銘柄などに関する情報をお届け中。
メールマガジン限定の音声も配信しています。
購読無料。どうぞお気軽に登録してください。