みずほ銀行がいよいよ追い込まれました。金融庁からIT担当者を派遣されて、共同でシステムを抜本的に改善するという前代未聞の業務改善命令が下されることとなったのです。
作った当人であるみずほ銀行ですら手に負えないものを、果たして金融庁は無事再生させることができるのでしょうか。荒療治すらいとわないとはいえ、難題山積のプロジェクトはもう後戻りできません。出口の見えない迷宮に金融庁も引きずり込まれたのです。
3度目の業務改善命令
業務改善命令は今回を含めて3回受けています。最初はシステム統合時(2002年)、東日本大震災時の2011年、そしてATMが作動しなかった2021年です。
なお、直近では三菱UFJ銀行が2007年、三井住友銀行が2006年にそれぞれ業務改善命令を受けています。
システムトラブルは構造的な問題
システムトラブルが連続するというのは、信用を第一にしている銀行にとっては、あってはならないことです。ひとたびシステムトラブルが発生すればその原因を究明し、徹底的なテストを繰り返して、問題再発防止に全力を傾けます。ところが、何度もシステムトラブルが連発してしまった。
もちろん、みずほ銀行のシステム担当者は手を抜いていたわけではなく、与えられた条件のなかで精いっぱいシステムを構築していたことでしょう。
銀行のシステムにエラーが発生することの重大性は、誰よりもメンテナンスにかかわっているエンジニアが一番わかっていることです。それにも関わらず何度も発生してしまうということは、もはや全体像を把握できている人材がおらず、つぎはぎのシステムを修正できなくなっていることを示唆しています。
令和のサグラダファミリア・MINORI
よく知られた話ですが、みずほのシステムは旧興銀、第一勧業、富士の3行の古いシステムを統合して作られました。このシステムに問題があるのはみずほ銀行自体が一番よくわかっています。暦年の問題を解決すべく一代プロジェクトのMINORIを立ち上げます。
しかし、このプロジェクトも過去のレガシー(既存のシステム)を活かしながら作ったために、大変複雑なシステムとなったことは有名です。
主要な開発業者だけでも、日立製作所、富士通、日本IBM、NTTデータという4つのITベンダーが参加。7年の歳月と、4000億円にもわたる総工費をかけて、令和のサグラダファミリアと揶揄される勘定系システムMINORIは立ち上がったのです。
現時点でも全体の構造をすべて把握している担当者が果たしているのかは、大変疑わしいのです。
金融庁担当者にとっては罰ゲームのような仕事
度重なるシステムエラーに業を煮やした金融庁はついに自らがシステムの問題点を探り、みずほのシステムを改善するという荒業に出ます。
これまでは、システムのロジックを細かく説明する必要はなかったわけですが、これからはどのように対応するのか、なぜその対応をするとうまくいくのか?を金融庁の担当者にレクしなければならない。
以前からみずほのITシステム部門担当者は金融庁に説明をしてきたはずですが、これからは携わる金融庁のシステム担当者が深いレベルでわかるように説明しなければなりません。金融庁の担当者も自分たちがかかわってミスをしたということになりますと責任問題になりますから、粒度の細かい説明を求めます。
お互い本音ではこんなことやりたくないのですが、みずほが度々システムトラブルを引き起こすので、これまでの対応策は不十分であり、外部に対してみずほに徹底指導をしているという姿を見せるためにもやむを得ない措置といえましょう。
システムの門外漢の私ですが、みずほ銀行のシステムはパッチワークだらけで操作性が悪いことは想像に難くありません。システム自体が動いて当たり前という評価、このプロジェクトに当てられた人はまさに罰ゲームのような仕事です。
金融庁にITシステムがわかる人材はいるのか
日経新聞によりますと、金融庁の職員の中にもITベンダーでキャリアを積んだITのスペシャリスト集団がいます。今回のみずほ案件は彼らが現場に乗りこんで、問題解決を図ることにあるわけですが、それとてうまくいく保証は全くありません。
これだけの時間と労力を費やしてやっと完成させたシステムですから何も知識がないエンジニアはその全体像を把握するだけでも一仕事だからです。
これだけ内部の人間が知恵を絞って手を動かしても再発してしまうようなシステムを、正しく動くように修正するには1年、2年では足りないでしょう。
みずほがもっとも恐れている事態とは
全体像の把握、問題点の調査、改善方法の確定、システム開発という手続きで今後システムが改修されていくわけですが、その全体像の把握の時点でみずほはおそるべき通告をうけるかもしれません。それは勘定系システムの根本的な見直しです。
つぎはぎだらけのレガシーシステムを使い続けることをやめさせて、再び巨額の費用を投入してイチからシステムを構築することを命令されるかもしれないのです。
収益性の観点からみずほ側は抵抗するかもしれませんが、ここまでトラブルが頻発していると、金融庁担当者の中には当然そのプランは頭に入っているでしょう。
しがらみのない「コンサルティング」
これまで社内の人間が死に物狂いで作ってきたシステムが機能不全に陥っているということは、今までのシステムが使い物にならないということです。
システムの完全な見直しには、さすがに多額の費用負担を銀行に強いることになることからさすがに金融庁も手を付けられませんでした。
みずほ銀行側も、旧3行のバランスを考えたシステムを利用し続けることをかたくなに続けました。外部の人間にはわからないほどの強烈な旧行意識がまだ残っているのです。
合理的に考えればどこか1社のITベンダーに仕事を発注するほうが安く済みますし、メンテナンスも楽です。この当たり前のことが、ポリティカルな理由でみずほのシステム開発ではできなかった。逆に言えば、これだけの事件が頻発しなければ、現場のIT技術者が望んでいたような開発の端緒は開かれなかったでしょう。
今後、三菱UFJが日本IBM、三井住友がNECにシステム開発を委託しているように、どこか一社にまとめてもう一度作り直すよう指示を出す可能性は十分あると考えています。
直接金融庁が直接「コンサルティング」に乗り出すということは、これまでのしがらみにとらわれない解決方法を提案することに他ならないからです。
みずほを何とかしなければならない理由
銀行のATMサービスは我々が空気・水・ガス・ガソリンなどと同じく当然に享受しているインフラサービスです。銀行を利用する一般庶民からするとATMが正常に作用しないということはそれだけで不安です。そうすると、既存の3つのメガバンク体制(りそなを入れると4つ)に支障が出かねません。
3つのライバルがある場合、それなりに競争環境が維持されるのですが、市場の主なプレーヤーが2社となりますと価格競争などに影響が出ます。銀行の場合は顧客に提示する金利が上がりかねません。今までは横の顔色を窺っていたのですが、みずほはえらばれないとすると、三菱と住友がお互いの動向だけを見ていればよくなるからです。
みずほがこの状況で勝ち残っていくには、他行よりも条件のいい金利を設定しなければ顧客を食い止めることができず、結果として経営体力の弱体化につながるかもしれません。
そうすると、法人融資を受けている幅広い業態にも影響が出てきます。もちろんATMだけの問題であればそこまで影響はないでしょうけど、ブランドイメージがこれ以上傷ついてメガバンク3行の緊張関係が崩れてしまうのは、監督官庁としてはどうしても避けたいところです。
終わりに
今回は、みずほ銀行のシステムトラブルの原因、なぜみずほ銀行がたてなおってもらわなければならないのか、そして今後のシステム抜本的な開発見直しの可能性について私見を述べました。
次第に新聞で、方向性が報道されていくはずです。金融庁が迷宮を抜けられるのかどうか、今後の動向に注目です。
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